La Neige 唯識を学ぶ Series #1 唯識Cafe;〜印度編〜
第1回 こころの「縁起」
0.「縁」――相互依存の関係
われわれは独立して生きているか?
→現実の自己の成り立ちを考えてみる。(身体、精神)
→自己を他者に紹介してみる。(生活、社会)
此あるときに彼あり。此生ずるにより彼生ず。
此なきときに彼あり。此滅するにより彼滅す。 『律蔵』
cf.『般若経』の空、天台の諸法実相、華厳の重重無尽法界縁起
1.「縁起」――因と果の関係
われわれの迷える現実はどうして成り立つのか?
→ものごとが起こる(果)には必ず多くの縁がある。
→いろいろな縁のなかで最も本質的な条件(因)を探ってみる。
何であれ、ものごとは原因より生ずる。それらの原因を如来は語られた。
また、それらの止滅をも。このように大沙門は語られた。 『縁起法身偈』
四諦
苦諦・・・苦の真理(生・老・病・死・愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五陰盛苦)
集諦・・・苦の集まり起こる原因の真理(渇愛・無明)
滅諦・・・苦の消滅の真理(涅槃)
道諦・・・苦の消滅を実現する道の真理(八正道)
〔八正道〕@正見 A正思 B正語 C正業 D正命 E正精進 F正念 G正定
十二縁起
老死
生
有 ・・・生存(生まれの因、迷いの果)
取 ・・・執着
愛 ・・・渇愛(煩悩)
受 ・・・感受(好悪)
触 ・・・接触(知覚)
六入・・・認識の領域(眼・耳・鼻・舌・身・意)
名色・・・認識の対象(精神と肉体)
識 ・・・認識の主体(心)
行 ・・・業(形成力)
無明・・・無知(迷い)
2.アーラヤ識縁起――こころの「縁起」
われわれの世界の理解や、世界の受け取り方は、人によって異なっている。
自己の生活をつくりだす根拠は、〈心〉の奥底に保存されているのではないか?
ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される。
もしも汚れた心で話したり行なったりするならば、苦しみはその人につき従う。
――車を引く牛の足跡に車輪がついて行くように。
もしも清い心で話したり行なったりするならば、福楽はその人につき従う。
――影がそのからだから離れないように。 『ダンマパダ(法句経)』
アーラヤ識縁起
〔表層心理〕@眼識 A耳識 B鼻識 C舌識 D身識 E意識
〔深層心理〕Fマナ識(自我)Gアーラヤ識(一切種子識)
種子生現行・・・アーラヤ識の種子から現象世界の事物が現れ出る。→煩悩障・所知障。
現行薫種子・・・現象世界の事物がアーラヤ識の中に影響を及ぼして種子を形成する。
種子生種子・・・アーラヤ識の中では刹那刹那に種子が生じては滅している。
名言種子・・・言語的表象によってアーラヤ識の中に形成される善・悪・無記の種子。
業種子・・・第六意識と結びついてアーラヤ識の中に形成される善・悪の種子。
3.「業」――行為の因果
行為(因)は消え去っても、後に見えない力(果)を残す。
われわれの〈心〉は、日ごろの〈行為〉によって変わってゆく。
→善悪の行為は習慣性を残す(善因善果、悪因悪果)=同類因等流果
→行為についての道徳的要請(善因楽果、悪因苦果)=異熟因異熟果
すべての悪しきことをなさず、善いことを行い、
自己の心を浄めること――これがブッダの教えである。
『ウダーナヴァルガ(七仏通誡偈)』
人は他人を浄めることはできない。
――もしもその他人が内的に心のはたらきが浄らかでないならば。
『ウダーナヴァルガ』
〔五戒〕 @不殺生 A不偸盗 B不邪淫 C不妄語 D不飲酒
〔十善業〕 身業 @不殺生 A不偸盗 B不邪淫
口業 C不妄語 D不両舌 E不悪口 F不綺語
意業 G不貪欲 H不瞋恚 I不邪見
〔四摂法〕 @布施 A愛語 B利行 C同事
〔四無量心〕@慈 A悲 B喜 C捨
cf.『涅槃経』の悉有仏性、如来蔵縁起、天台の本覚思想、真言の即身成仏、禅の見性成仏
4.瑜伽行(唯識)派の成立
弥勒 Maitreya(270?-350?):慈(友愛)の教師という意味で、漢訳では「慈氏」「慈尊」等と訳される。兜率天の内院に住む弥勒菩薩であるという説と、実在の人物であるという説とがある。唯識学の百科全書『瑜伽師地論』Yogacara-bhumiは弥勒の作と伝える。
無著 Asanga(310?-390?):北インド・ガンダーラ国に生まれ、小乗の空観を修めたが飽きたらず、弥勒に就いて大乗の空観を学び大悟したという。唯識の教理的基礎を築き、唯識の立場から大乗の要義を整理した綱要書『摂大乗論』Mhayana-samgrahaを著す。
世親 Vasubandhu(320?-400?):無着の実弟。はじめ小乗の説一切有部に学びアビダルマ学の綱要書『阿毘達磨倶舎論』Abhidharmakosabhasyaを著す。のちに大乗に転向して唯識思想を組織大成した。その著『唯識三十頌』Trimsika Vijnaptimatratasiddhihは唯識の要義を三十の偈頌にまとめたもの。