委嘱曲作曲家より、委嘱曲へのメッセージ

#7の委嘱曲タイトル:『黄連雀・・・upon that snow, out in that crystal land!__三絃と笙のため の」

 

作品のタイトルはウラディミール・ナボコフのテクストから引用されているということで、武智さんがつけておられた日本語訳を添えたいと思います。

 

黄連雀    ウラジミール・ナボコフ「淡き炎」より    佐々笹人 訳

私はガラス窓に映る偽りの青空に殺された一羽の黄連雀の影。

私はちょっぴりガラスにくっついた灰色の柔毛(にこげ)の跡。

それでも私は生きていて、窓に映る中空をどこまでもどこまでも飛んでゆく。

内側からも私は映し出す、私の姿と、卓上ランプと、皿の上のリンゴを。

夜のカーテンを開けば、暗いガラスに映る部屋中の家具が、

向うの庭の芝生の上にぶら下がる。

それからきれいな雪が降り出して、だんだん芝生を隠してゆき、

すっかり降り積もって、椅子やベッドが向こうのそのクリスタル・ランドの

まっしろな雪の上にしっかりと立ったときの何というよろこび

 

ひらひらと舞う雪のひとひらひとひらは

形も定まらず、ゆっくりゆっくり降りてきて、

その色はうつろう雲のくもり色

澄んだ明るい昼の白ではない、つや消しのほの暗い夜の白、

おだやかに和らいだその光の中に浮かぶのは、まぼろしのカラマツ林

そして夜が観る者と観られる物とをひとつに融け合わせてゆくにつれて

ゆっくりと、はてしもなく広がってゆく悲しみのブルー

 

私はガラス窓に映る見せかけの遥かの空に殺された一羽の黄連雀の影。